法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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第34回<表現の自由と国民投票>


私たちが日々の生活の中で自由におしゃべりしたり、インターネットに書き込んだり、カラオケで好きな歌を歌ったりすることは、とても楽しいことです。何かを表現したいという気持ちは、人間の本性に基づくもっとも人間らしい欲求であり、自由の中でももっともその人らしさがあらわれる自由です。憲法はこれを表現の自由(21条)という人権として保障していますが、「その人」らしさに関わるという意味では人間の尊厳に直結する大切な権利です。
表現の自由にはもうひとつ、民主政治にとって不可欠の前提をなすという重要な意味があります。民主主義に基づく政治は、そこで生活する市民の一人一人が自由に自分の考えを表明し討論することで、政策決定を行っていくという仕組みです。そもそも民主主義は、何が正しいかわからないからこそ皆で議論し、お互いの考えをぶつけ合って最もよいものを見つけだそうとするものです。そこでお互いが自由にものを言えなければ成り立ちません。
そしてこうした意味でもっとも表現の自由が重要な意味を持つのは、憲法を改正するかどうかの議論がなされる場面です。国民が、国会の発議した改憲案に賛成するか否かを決める際に、いろいろな意見に接して慎重に自分の考えを決めていかなければなりません。仮に憲法改正の手続法を制定するのであれば、表現の自由を最大限保障したものでなければなりません。
通常の政策決定や法律制定の際に、仮に、十分な議論がなされず、少数派の意見も聞かずに、多数派の人たちが理不尽な法律を作ってしまったとしても、つまり不当な法律が出来てしまったとしても、裁判所がその法律に対して違憲判決を下して少数者を救済することが可能です。これを裁判所の違憲審査権といいます(憲法81条)。裁判所としては、表現の自由が不当に侵害されているおそれのある場合には、厳格に審査して、表現の自由をしっかりと守ることができます。表現の自由は他の自由よりも、いろいろな口実をつけて不当な制限を受けやすいので、裁判所としても特に慎重に判断する必要があるからです。
ところが仮に、憲法改正の際に少数派の意見を十分に聞かず、憲法が少数者の人権を侵害するようなとんでもない内容に改悪されてしまったときには、その少数者を救済する手段はありません。裁判所にも改憲を無効にする権限など与えられていないのです。つまり、ひとたび少数者への配慮を欠く改憲が行われたときの事の重大さは、少数者を無視する法律が制定された場合とは格段に違うのです。
ですから憲法改正において、そうした不幸なことが起こらないようにするために、国民投票の前に、国民の一人一人が自分とは違う立場の人の意見もよく聞いて、しっかりと考える機会を保障されることが不可欠なのです。仮に憲法改正がなされたら自分の生活がどのように変わるだろうかと想像力を働かせながら、自分のこととして考えることができなければなりません。たとえば自衛隊が自衛軍になると、その結果いつでも徴兵制が可能となり自分も軍隊に行かなければならなくなるということを知っておかないと、この点についての正しい判断ができないでしょう。
こうした想像力を働かせるきっかけとなるような十分な議論が自由に行われて初めて、国民は正しい判断ができるのです。ですから、公務員、教育者、外国人などさまざまな立場の人が自由に発言できるように表現の自由を最大限保障しなければなりません。憲法改正運動だからといって、あえて制限することはもちろん、国家公務員法による公務員の政治的行為に対する規制も撤廃するべきです。
現在は一般職の公務員は、政治的中立性の要請から政治的行為を禁じられていますが、そもそもこれは不当な人権侵害です。公務員が一市民として職務と無関係に行う政治活動を規制する理由はどこにもありません。ましてや憲法改正国民投票運動という重要な場面においてこれを規制することは、なおさら許されることではありません。
また、ときに表現の自由は、本来の目的とは異なる名目で規制されることがあります。交通の妨げになるからと街頭演説やデモ行進を制限したり、住民の平穏を害するといってビラ配布を住居侵入罪で処罰したりします。本当は、権力にとって都合の悪い表現行為を抑圧することが目的なのに、もっともらしい理由をつけて表現の自由を制限するのです。国民投票の際にこうした規制が行われてはなりません。私たちは普段からこうした不当な人権侵害が行われないようにしっかりと監視していく必要があります。それが市民としての責任です。
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