法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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第33回<平和と福祉の強いつながり>


小泉政権が進めてきた格差社会が広がり、お年寄りや障害者、長期入院患者などの社会的に弱い立場の方々がとても苦しい状況に追い込まれています。国や自治体から受けられるサービスは減っているのに、税金の負担だけは増えています。
介護保険や医療保険、年金や生活保護などの福祉サービスを受けることは生存権という人権として保障されています。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」〔憲法25条1項)ので、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」(2項)のです。これは単に政府の努力目標を示したものではなく、私たち一人一人に生存権を人権として保障したものです。
もともと憲法は市民の「国家からの自由」を守るために生まれました。一八世紀後半の近代市民革命以後の西欧社会において、国民の自由を守るために国家が国民生活に干渉しないように、憲法で国家に歯止めをかげたわけです。
そのおかげで自由主義経済が発展したのですが、この一九世紀の資本主義の発達は様々な弊害(へいがい)も生みました。国家から干渉(かんしよう)されず自由に生きることができる社会では、自分の生活は自分自身で面倒をみることになります。しかし、常に健康で、仕事もあり、働く能力があるわけではありません。ときに健康を害したり、介護が必要となったりすることもあるでしょう。そんなときに富の偏在(へんざい)から、自分の力だけで自立して社会に関わっていくことが困難な人たちも多くでてきました。
そこで、社会経済的弱者が人問に値する生活を実現できるように、国家が積極的に国民生活に介入して救済(きゆうさい)をはかるべきだという考えが生まれます。こうした考えに基づいて生存権などの人権(社会権)が生まれました。
世の中にはいろいろな人がいるのですから、お互いが助け合わなければなりません。自分だけよければよいという考えでは社会は成り立ちません。そこで、社会的な弱者に国が手をさしのべて、税金を利用して富の再配分をするわけです。世の中には、病気や失業など、生きていく上で個人の力ではどうにもならないことがあります。そしてそれは誰にでも起こりえます。人ごとではないと理解することが必要です。
もともと国家の役割は、一人一人が自分らしく幸せに生きられるようにすることにあります。そこで個人の私的領域にはできるだけ介入しないで個人の自由にまかせる一方で、個人が自分らしく生きていくのに困難を感じているときには、それをサポートすることが求められます。特に思想などの精神活動の領域については、国家はできるだけ介入せず、逆に経済的関係については、弱い者に手をさしのべて自立を助けることが求められます。ここを逆転させてはなりません。
そして生存権の保障を求めることを、国から施しを受けることと考えてもいけません。「金をもらっているのだから、言うことを聞け」ということになったら本末転倒(ほんまつてんとう)です。
生存権の保障は、一人一人が自分らしく自由に生きることができるように、そのための手助けを国がするだけです。福祉の代償(だいしよう)が自由であってはならないのです。あくまでも、自分の人生は自分で決めることができるのが原則であり、憲法13条の幸福追求権から導かれる自己決定権がその根底になければなりません。自分らしく生きるために福祉サービスがあるのであり、あくまでも一人一人が主体です。
しかも、憲法25条は、単に最低限度の生活を保障したのではありません。健康で文化的な生活を保障しています。つまり、トータルな人間性の向上が憲法の要請です。外国人も含めて、一人一人を個人として尊重する憲法13条の延長線上に、25条を始めとした福祉が位置づけられるのです。
その先には「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」という前文の平和的生存権が続きます。戦争や貧困、飢餓、病気など人間の生存を危うくする危険から一人一人を人間として保護していくという考え方です(人間の安全保障)。日本はそうした努力をすることによって国際社会において名誉ある地位を占め、各国と信頼関係を築き、攻められない国を作る。これがもっとも現実的かつ効果的な国防のあり方であり、国際貢献であるとしているのです。つまり、憲法9条とも密接に関わってくるのです。
平和であってこそ、人間らしい生活ができるのですし、貧困から解放されて人間らしく生きることができるようになると、他者への配慮をする余裕が生まれ、平和を愛する素地が生まれてきます。平和と自由が相互補完の関係にあるのと同じく、平和と福祉もまた相互補完(そうごほかん)関係にあります。
国内において弱い立場の方々へのケアを充実させることと、日本が国際社会において貧困や伝染病の撲滅(ぼくめつ)のために軍事力によらない国際貢献(こうけん)を行うことは、同じくらい重要なことなのです。
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