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第31回<憲法から考える自民党総裁選挙>


一つの政党で誰が党首になるかは、本来、その政党の内部の問題ですから、国民がいちいち大騒ぎをする必要などないはずです。ところが、日本では、国会で内閣総理大臣を指名するので(憲法67条)、通常は、国会でもっとも議席を有する政党の党首が総理大臣に指名されることになります。
つまり、国会の与党第一党の党首選挙が事実上、内閣総理大臣を選ぶのと同じ意味を持つことになるのです。そこで国民は大きな関心を持つことになります。
憲法の下ではどのように行政権が運営されることになっているのでしょうか。まず、国会で選ばれた総理大臣は、国務大臣を選んで内閣を組織します。この国務大臣はその過半数が国会議員であることが憲法上要求されているだけですから(憲法68条1項)、何人かを民間人から登用してもかまいません。
こうして作られた内閣に行政権が帰属することになります(憲法六五条)。憲法は内閣という合議体に行政権を与えました。これを合議制といいます。外交関係の処理や予算の作成、一般行政事務など、内閣の権限として憲法が定めていること(憲法73条)は、内閣の閣議で決定されます。総理大臣は閣議決定に従って、内閣を代表して行政各部を指揮監督します(憲法72条)。閣議決定は慣習で全員一致が求められていますが、もし、重要な案件に反対する国務大臣がいるときには、総理大臣はその人を辞めさせたり、交替させたりすることが自由にできます(憲法68条2項)。内閣が一体として活動できるように、総理大臣には首長として強い権限が与えられているのです。
この総理大臣とその他の国務大臣からなる内閣に行政権が帰属し、その内閣が国会に対して連帯し、責任を負うことになります(憲法66条3項)。このように内閣が国会に対して責任を負う制度を議院内閣制といいます。国会によって選ばれた総理大臣が作った内閣が、国会に責任を負うわけです。
ちなみにアメリカでは、大統領という一人の人間に行政権が帰属する独任制です。そして事実上、国民から直接選ばれた大統領が国民に対して責任を負う大統領制をとっています。
日本とアメリカの行政のあり方は、このように、合議制か独任制か、議院内閣制か大統領制かという点において違いがあります。合議制で議院内閣制の方が、衆知を集めた慎重な行政運営を期待できます。それは、国民の声を国会が吸い上げて、十分に審議してからその国会の意思に従う形で、内閣の閣議で相談して行政を運営するからです。ただし、迅速性に欠けることがあります。
独任制で大統領制の場合は、国民の声を大統領が直接、行政に反映しますから、迅速で強力なリーダーシップを発揮することができます。しかし、独裁の危険がつきまといます。
このようにそれぞれ長所も短所もあるのですが、日本の憲法は、国民が日頃の生活の中で感じる閉塞感などから英雄を望んでしまい、独裁者に振り回されて悲劇を迎えることがないように配慮して議院内閣制を採用しました。
日本は戦前、情報操作に惑わされ、雰囲気に流されてしまった国民が、一丸となって戦争に突っ込んでいった苦い経験を持ちます。そこで憲法は、国民一人一人の思想・良心の自由を保障するとともに(憲法19条)、政府を批判する表現の自由をしっかり保障して(憲法21条)、報道機関が政府に都合のよい情報ばかり流して国民の判断を誤らせることのないようにしました。
これまで続いた小泉政権では、小泉首相が毎日のようにテレビに登場して国民やマスコミに向かって発言し、世論を直接コントロールすることで得た国民の支持に支えられて政策を実現してきました。あたかも大統領制のような手法です。
もちろん日本は議院内閣制ですから、本来、国会において国民の多様な意見を吸い上げて、特に少数者の意見を無視することなく、十分に議論して政策を実現することが求められているはずです。しかし、実際は少数意見や弱者の声は切り捨てられ、政府を批判する言論は一部を除いてあまり報道されませんでした。これでは議院内閣制の長所を生かして、議会制民主主義を実現してきたとはいえません。
異論や少数意見を持つ者が自由に発言でき、多数派もそれに耳を傾けることができて、初めて民主主義は正しく機能します。多様性が保障されると同時に、一人一人の国民が自分の頭で考え、自分の意見をもって行動できる自立した市民であることが民主主義の前提です。為政者の見かけに惑わされたり、マスコミに踊らされたりしてはなりません。
たとえ自分が直接選んだ総理大臣でなくても、新しい政権がどのような政策を実現しようとしているのか、この国をどんな方向に持っていこうとしているのかをしっかりと認識し、必要ならばこれをはっきりと批判していくことが必要です。国民一人一人が政治を監視し続け、批判し続けることこそが民主主義の本質だからです。
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