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第26回<「国民投票法」を考える>


国会で「国民投票法案」が審議されようとしています。
憲法を改正するには、各議院の総議員の3分の2の賛成によって提案された改正案に対して、国民の過半数の賛成が必要です(憲法96条)。そこで、改憲したいと考えている人たちにとっては、国民投票を実施するための国民投票法がぜひとも必要となります。
この憲法改正の国民投票は、主権者たる国民が、主権者としてみずからの意思を表明できる数少ない場ですから、とても貴重なものです。ところが、改憲に反対の人たちはこの法律じたいにも反対しています。それは国民主権じたいに反対することにならないのでしょうか?
国民投票が国民主権の発動として、ただしく機能するためには、いくつかの前提が必要となります。その前提を欠くような国民投票は、たんなる多数の横暴にすぎません。国民の多数意思は、ときにたいへんな人権侵害やまちがった政治判断を加速させる危険性をもっています。そうした弊害をなくすためには、どのような前提が必要なのでしょうか。
まず国民が、「憲法とはなにか」を知っていることが必要です。ふつうの法律と憲法のちがいすらわからずに、ムードに流されて投票してしまうことほど危険なことはありません。
また、結果的に多数派の意思によって決められるとしても、けっして少数派を無視したものであってはなりません。少数派への配慮を十分に考えたうえで、真の立憲民主主義にもとづく国民投票でありたいものです。
そのためには、投票前に国民自身が、自分の問題としてしっかりと議論することができなければなりません。かりに教師が改憲について発言できないとなると、大学をふくめた学校では十分な議論もできず、明日の主権者である若者がますます政治に無関心になってしまうでしょう。また、反戦ビラを配布したくらいで警察に逮捕されるような状況では、憲法改正に関する表現活動の自由が保障されているとは思えません(くわしくは本誌2月号(編集部注:「第23回」です)の「ビラ配りは犯罪か?」をお読みください)。
さらに、改憲案はわかりやすく提示されることが必要です。内容がよくわからないときには、提案者への従順な支持や棄権が多くなってしまいます。フランスでも憲法改正(1958年)のさいに、当時のドゴール大統領への信任投票となってしまって、ただしく民意が反映しなかったといわれます。
こうした前提条件がととのっていない段階では、国民投票そのものを阻止しようとすることは十分に理由のあることなのです。
地方自治レベルで住民投票が成功しているから、国民投票も大丈夫だろうと単純に考えるのは危険です。地方自治レベルの住民投票では私たち自身に身近な問題をあつかいますから、具体的に考えて判断することができます。ですが憲法改正となると、すこし抽象的で、まだよくわからないことが多いのではないでしょうか。たとえば、「公共の福祉」と「公の秩序」のちがいはなにかといわれても、よくわからない人が多いと思います。
また、地方レベルの住民投票の結果は自治体を拘束しませんから、その結果がかりにまちがってしまったとしても、弊害はそれほど大きくはありません。しかし憲法改正は、国民投票が最終的な判断であり、とり返しがつかない結果をまねきます。より慎重にならなければなりません。
ところで、「これまで国民投票法がなかったのは国会の怠慢だ」という人がいます。ですが国民投票は、国民が憲法改正の必要性を感じたときにはじめておこなわれるものです。これまでは国民が憲法改正の必要性を感じていなかったから、国民投票法をつくる必要がなかっただけのごとです。
そもそもこうした手続法は、「たんなる手続を定めるだけで、なんの目的ももっていない」ということはありえません。たとえぱ、刑事訴訟法という手続法は、国家の刑罰権の実現を目的にしています。民事訴訟法という法律も、私法上の権利の実現を目的にしています。国民投票法は憲法改正という目的があって存在するのですから、憲法改正に反対する人たちがこの法律の制定に反対するのは当然のことです。
憲法改正は国会が提案し、国民が評決して決定されます。国会という権力が憲法を変えようとしてきたときに、主権者であり、「憲法を権力者に押しつけている」側の国民が、「きちんと憲法を守りなさい」とつき返すのが国民投票です。ですからその前段階として、「国民投票じたいをさせない」というつき返しかたもあるのです。
政治家主導の憲法改正に対して、国民のなかから反対運動が起きます。これは国家権力と主権者たる国民とのたたかいです。「国民主権の発動だから国民投票もいいではないか」と安易に考えることは、そうした本質をおおいかくす危険性をもっていることに、注意しなければなりません。
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