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第22回<平時になんで新憲法?>


一〇月二八日に、自民党の「新憲法草案」が発表されました。
これはそのタイトルがしめすように、「改憲案」ではありません。内容的にも現在の憲法の根本価値を否定しているので、あきらかに「新憲法の制定」です。
ですが、そもそも私たち主権者は、国会議員に新憲法制定の権限などあたえていません。改正のための発議権を国会にあたえているだけです。
たしかに国会議員が憲法改正の議論をすることは認められています。しかし、新憲法の制定となると話は別です。
「改正」はいまの憲法との連続性をたもちつつ、部分的な手なおしをすることですが、「新憲法の制定」はいまある憲法の価値を否定して、あらたな憲法秩序を構築することを意味します。「国会議員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」ことを定めた憲法九九条に違反するのは明らかです。
こうした自民党案の本質について、名古屋大学の浦部法穂教授(憲法学)は、「そもそも平時に新憲法の制定をおこなう国などない」と指摘します。百歩ゆずったとしても、国民が「憲法制定会議」の代表を選出してはじめて新憲法制定の議論が可能となるはずです。現憲法下の国会議員が憲法九九条を無視して新憲法の制定をおこなうことは、一種の「政治的クーデター」ともいうべき行為ではないでしょうか。
内容的にも、愛国心を強制する前文や、「公益」の強調など問題が多いのですが、今回は二点だけ指摘しておきます。
第一は「自衛軍」の創設です。
自民党案は、総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持するだけでなく(九条の二)、社会的儀礼の範囲内なら国による宗教的活動、つまり靖国参拝も可能にしようとしています(二〇条三項、八九条一項)。戦争になると戦死者が出ることはさけられません。そこで戦死を美化するための用意をしたということです。さらに総理大臣の権限を強化し、閣議決定なしで直接、行政各部を指揮監督できるようにしました(七二条)。こうして戦争へのハードルをかぎりなく低くしています。
平和を「人権」として主張することがいまの憲法のいちばんの特徴ですが、それも廃止し、将来にむけた「積極的非暴力平和主義」の展望をも奪ってしまう内容になっています。
自民党案には、「自衛軍は、前項の規定による任務を遂行するための活動を行うにつき、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する」とあります(九条の二の二項)。つまり「文民統制」(文民=非軍人が軍隊をコントロールすること)を規定しているのですが、「国会の承認」は不可欠なものではなく、「その他の統制」でもよいことになっています。これでは文民統制は骨ぬきです。
また、自民党案九条の二の三項には、自衛軍の活動が三つ規定されています。その三つめには、「緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命もしくは自由を守るための活動を行うことができる」とあります。
つまり、国内で暴動などが起こったら自衛軍がその鎮圧にあたるということです。なにをもって「公の秩序を維持するための活動」とするのかがはっきりしませんが、とにかく国民に対して、軍の銃口がむけられるということです。そしてこうした活動には、国会の承認はおろか、憲法上はなんの統制も必要とされていません(「国会の承認その他の統制」は九条の二の一項の活動にだけ必要とされています)。
第二は「地方自治」の問題です。自民党案では、住民に、「地方自治体の役務の提供」の負担を分担する義務を負わせます(九一条の二の二項)。憲法に「義務負担」の規定をおくことじたいが、まず問題です。
そして九二条では、「国と地方自治体の適切な役割分担」を定めています。では、誰が「適切」と判断するのでしょうか? どのような役割分担がなされるのでしょうか? 
この規定によって、「国防や外交、軍事、国際協力などは国の役割だから、地方は口を出すな」といわれる危険性があります。横須賀市や神奈川県が「原子力空母入港反対」と声をあげたり、沖縄県が独自に米軍に意見をのべたりすることもできなくなります。「無防備地域宣言」のような平和活動も、大きく制限されることになるでしょう。
それを決定づけるのが九五条の削除です。
いまの憲法の九五条では、特定の地方公共団体だけに不利益に適用される法律をつくるときには、その地域住民の住民投票が必要となっています。つまり国が特定の地域に、不利益な法律を勝手に押しつけることはできないのです。
この条文を削除してしまえば、国は特定の地域に不利益な法律も自由につくれることになります。地方自治体は法律の範囲内でしか権限をあたえられていませんから、国が法律によって、いくらでもその権限を制限することができてしまうのです。まさに地方は国のいいなりです。
これで「地方の時代」などといえるのでしょうか。
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