法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

中高生のための憲法教室

 

第20回<「よくわからないけど小泉さんが好き」?>


九月一一日の衆議院選挙の結果、与党が圧倒的多数をしめることになりました。
「郵政民営化を問う」という争点がはっきりしていた選挙では、国民も判断をしやすかったのだと思います。そして、小選挙区制という選挙制度のもとでは、国民の意見の多数派が議席を独占するしくみになっているために、あのような結果になったわけです。今回は、「民意を問うための解散」の意味、また憲法が「間接民主制」を採用している意味について考えてみましょう。
そもそも衆議院の解散について、憲法は二つの条文しかおいていません。六九条と七条です。
六九条は「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」と規定し、内閣不信任決議をつきつけられた内閣は、衆議院を解散できることを示しています。
もうひとつ、七条は、「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。……三 衆議院を解散すること」と規定しています。この七条によって、「内閣に実質的な解散権がある」と解されていますが、内閣がどのような場合に衆議院を解散できるのかは、はっきりしていません。
六九条の解散は、衆議院つまり国会に対して内閣が抑止力を行使する意味をもつもので、「権力分立」の考え方のあらわれです。もともと権力分立は、権力の集中を避け、権力を分散させることで国民の自由を保障しようとするものです。そこで、六九条の解散は、「自由主義的意義の解散」といわれます。
解散はこの場合にしかできないという考えもありますが、多くの憲法学者は、「国民の意思を問うための解散も可能である」と考えています。つまり民意を問うための「民主主義的意義の解散」です。有力な見解は、「衆議院で内閣の重要法案が否決されたときには解散できる」としています。
今回は参議院で郵政民営化法案が否決されたのですが、その後衆議院での再議決を求めても否決されたでしょうから、この場合にあたると考えてよいと思われます。
「民意を問うための解散」は国民にはわかりやすいのですが、一種の国民投票のような性格をもつため注意が必要です。というのは、憲法は民主主義をとても重視しながらも、「直接民主制」に対しては少し慎重な態度をとっているからです。
そもそも民意を国政に反映させる方法としては、有権者が直接、国民投票などによって政治的意思を表明する方法(直接民主制)と、国民から選ばれた代表者が政治をおこなう方法(間接民主制、代表民主制)とがあります。
日本では憲法前文に「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し……」とあるように、間接民主制を採用しています。そして、国政レベルでは、最高裁判所裁判官の国民審査(七九条)、地方特別法の住民投票(九五条)、憲法改正国民投票(九六条)の三つの場合だけ、直接民主制的制度をとり入れました。
国民投票などをもっと積極的に採用して、直接、民意を問う場面を多くしてもよさそうなものですが、あえて、直接民主制を原則としていないのです。なぜでしょうか。
民主主義にもとづく政治というものは、多くの人の意見を聞いて、それを最終的にはひとつにまとめあげていかなければなりません。その過程で、全国民のあいだでそのような審議・討論をし、おたがいに妥協しあって、意見をひとつにまとめあげていくことは事実上不可能に近いことです。
また、ヘタをすると、ときの権力者による世論操作や情報操作により、国民が正しい判断をすることができない危険性もあります。それによって少数派の意見が無視され、多数の横暴によって人権侵害を招きかねません。そこで代表者が慎重に審議し、少数派の意見も十分に聞いて、国の方針を決定していくべきだと考えているのです。
国民投票のような方法だとどうしても、争点に対する純粋な判断ができずに、そのときのリーダーに対する信任投票のような雰囲気になってしまって、ムードで結論が左右されてしまう危険があることも指摘されます。
「郵政民営化についてはよくわからないけど、小泉さんが好きだから自民党に投票する」といった具合です。「国民から信任を得た」と考える国のリーダーが暴走して、独裁政治を招く危険があるーー憲法はこの点にも慎重なのです。
さて、民意を問うための解散は、そこで争点となったテーマについては国民の意思を確認することができます。ですが、それ以外の問題点については、けっして国民はそのときのリーダーに白紙委任をしたわけではありません。国民はそのあと国会議員がどのような行動をとり、どのような政策を実現していくのか、しっかり監視しつづけなければなりません。
これからが民主主義の正念場です。
<<(19)へ

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]