法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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第13回 <嫌いなのは自由、歌うのは義務?>


みなさんの学校でもそろそろ卒業式や入学式が近づいてきたと思います。最近、公立学校では、日の丸、君が代を強制されることが問題になっているようです。これからこの問題を三つに分けて整理して考えていきたいと思います。

一つは、そもそも国旗掲揚や国歌斉唱によって、国家を意識させる意味は何なのだろうかということです。よく「愛国心をもとう」ということが言われますが、この「愛国心」とは何なのでしょうか。

二つめは、教育の場において、「愛国心」を教え込むことがどのような意味をもつのかという点です。ここでは「教育ってなんだろう」「誰が何のためにやるのだろう」ということが問題になります。

そして三つめは、「愛国心」や「国を自覚すること」を強制することが、そもそも許されるのかということです。

日の丸や君が代についてはその歴史的な意味合いから,国旗や国歌にふさわしくない、だから自分は敬意を表したくないし、歌いたくないという人もいます。そのような人たちに国旗掲揚や国歌斉唱を強制することができるのでしょうか。

今回は、この三つめの問題について考えてみましょう。

日の丸、君が代には共通点があります。天皇制、靖国神社とともに、天皇を中心とした「神の国」のシンボルだという点です。万世一系の天皇、その天皇のために死んだ人を英雄としてまつる神社、天皇のためにたたかうときの旗、天皇の世が永く続くように願う歌……これらは明治以降、近代国家としての日本を統一するための道具として、政治的に利用されてきたものばかりです。ときの権力者が天皇のもとに国民を支配するために創り出したものであり、日本古来の伝統でも何でもありません。またこれらは同時に軍国主義とも結びつき、血塗られたイメージを持つ人も少なくありません。

こうした国旗や国歌というシンポルにどのような気持ちをもつかは一人ひとりの自由であり、まさに内心の問題です。憲法では「思想・良心の自由」として保障されています(19条)、そして、仮に多くの国民が納得するような新しい国旗や国歌ができたとしても、それを敬うように強制することはできません。多くの国民がそれをよしとしても、少数の人たちにそれを強制することはできないのです。

そもそも憲法のもとでは、一人ひとりの人権は最大限に保障されます。その思想が表現活動や行動に表れて、他人に迷惑をかけるようになると話は別ですが、そうでないかぎりは、国家に対して内心の自由は絶対的に保障されるのです。

そして、どのような思想や良心をもっているのかを国が調査したり、それを強制的に言わせたりすることもできません。心のなかのことは人に言いたくないこともあるはずです。それを無理やりに言わせるというのは、その人の人格を無視することになり、人間としての尊厳を軽視することになるからです。これでは「一人ひとりを個人として尊重する」という憲法の理念(一三条)に真正面から反してしまいます。

それでは、特定の思想や良心を強制するわけではないけれども、一定の行為を強制することはどうでしょうか。たとえば、日の丸や君が代に反対する気持ちをもつことは自由だが、起立したり歌ったりすることを義務づけるというものです。

たしかに形式的には、心のなかでどのように思っていようと自由なわけですから、こうした行動の強制は一定の必要性があれば許されるようにも思われます。

ですが、そもそも「思想・良心の自由」を保障した趣旨は、その人が自分の考えをもつことによって、その人らしく、自分らしくありたいと思う気持ちを、尊重するところにあります。とすると、「たとえ内心でどのように思っていてもいいから、とにかく起立して歌いなさい」と強制することは、君が代をこころよく思っていない人にとっては大変な苦痛ですし、自分らしさを強制的に奪われることになってしまいます。

自分が悪いことをやったわけではないのに、「土下座して謝れ」と強制されると、誰でもいやな気持ちがするはずです。それは「自分は悪いことをしていないのだから謝りたくないしという、人間としてのゆずれない思いがあるからです。そこで謝ってしまったら、自分ではなくなってしまうと考えるからです。こうした人格の本質にかかわることについては、たとえ法律によっても、強制することはできないのです。

君が代斉唱を強制されることがその人にとってこうした意味を持つ場合には、その強制は憲法違反になります。

そして憲法に違反することは、たとえ公務員への職務命令によっても強制することはできません。ましてや、子どもたちに事実上強制することなどできるはずもありません。

「思想・良心の自由」は、「自分らしく生きたい」という個人の尊重の延長線上にあります。日の丸・君が代の強制はこれを正面から否定することになってしまうのです。

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