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第12回 <「表現の自由」はなぜ大事?>


今回はテレビや新聞などのメディアから発信される情報と、「表現の自由」について考えてみたいと思います。

こうした情報について考えるときに前提として理解しておかなければならないことがあります。それはメディアから流される情報は、事実に対してなんらかの評価が加えられて流されているということです。そこには評価し、判断する人の考え方や価値観が反映しています。

テレビや新聞を見ているとどうしてもそこに書いてあることだけが客観的な真実のような気がしてしまいます。しかし、そのニュースは世界中に無数にある事件の中から番組制作者や編集者が選択したものです。どのニュースを載せるかを一定の価値観に基づいて判断した結果です。

テレビならば何分放送するか、どのような映像を流すか、反対の人の意見をどうするかなど、すべて番組制作者の意見や価値観がそこには反映されます。そして、そのような報道を正しくないと考える人もいるかもしれません。ですが、「この番組内容は中立的でないから変更した方がいい」という批判もまた、ある価値観に基づいたひとつの主観的意見にすぎないということになります。

問題はこのように意見が対立したときに誰がどのようにそのよしあしを決めるのかということです。国や政治家が「この内容は偏っていてよくないから内容を変更すべきだ」ということを一方的にメディアに押しつけることができるとしたらどうでしょうか。それでは国や政治家の気に入った番組や記事しか流されなくなってしまいます。

たとえば、アメリカがイラク戦争を始めるときに「イラクには大量破壊兵器が隠されていてテロリストとつながっている」という情報だけが、政府の影響を受けてメディアから大量に流されました。多くのアメリカ国民がそれをもとにイラク戦争賛成という判断をしてしまいました。しかし、その情報は間違いだったことが今は明らかになっています。何万人もの命を奪う結果になるような重大な判断材料となる情報が正しく流されず、国民が自由に情報に接することができないと、大きな不幸を招くという一例です。

メディアから流される情報のよしあしは国や政治家のような権力を持った者が判断するのではなく、あくまでも、情報を受け取る側である国民が自ら判断するべきものなのです。国や政治家はメディアの報道内容に口をさしはさむべきではありません。

私たちには、国の干渉を受けずに自由に表現し、かつ情報を受け取る自由(知る権利)が保障されています。憲法二十一条一項は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と規定していますが、これは「表現の自由」とともに国民の「知る権利」を保障したものだと考えられています。表現行為は情報の受け手が存在して、はじめて意味を持つものですから、二十一条一項は情報が発表されてから受け手が受け取るまでその過程のすべてを国家権力による干渉から保護しているのです。

私たちは自分の思いや考えを人に知ってもらったり、また、人の発表するものを見たり聴いたりすることで、より幸せになることができます。たとえば、アーティストは自分のつくった楽曲を多くの人に聴いてもらうことで、自らの才能や役割を確認し、喜びを感じるのだと思います。そして私たちも、好きな曲を自由に聴いて楽しむことで心が豊かになります。もし、「この曲はよくない曲だから聴いてはいけない」と国が決めつけてきたら、みなさんも納得できないでしょう。

このように何かを表現したい、知りたいという欲求は、もっとも人間らしい、私たちの本質に関わるものなのです。「その人」らしさという意味では人間の尊厳に関わるものです。

さらに「表現の自由」、「知る権利」は私たちの政治にとって不可欠であり、民主政治にとって重大な意味を持ちます。

民主政治は一人ひとりの国民がその知り得た事実に基づいて判断した考えを、議論を通じて実現しようとするものです。国民が十分な議論をして何が正しいかをみんなでみつけようとしているときに、「こう考えなければだめだ」と特定の考え方を押しつけられたのでは、民主政治は成り立ちません。

そもそも民主主義は、何が正しいかわからないからこそみんなで議論しお互いの考えをぶつけ合って、もっともよいものを見つけだそうとするものです。そこでお互いが自由にものを言えなければ成り立たないのです。

国や政治家が特定の考え方をメディアに押しつけることも、メディアの自由な報道に何らかの影響を与えるような行動をとることも許されません。国や政治家などの権力を持つ者は、国民の思想や言論活動といった精神的な営みの領域には立ち入ってはいけないのです。

それは「表現の自由」を侵害し、人間の尊厳を傷つけるだけでなく、民主主義の本質をつき崩してしまうことになるのです。
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