法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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第10回 <公務員の人権が制限されるワケ>


これまで憲法でいちぱん大切なことは、一人ひとりを個人として尊重することだとお話してきました。そして、こうした「個人の尊重」という価値を具体化するために、人権を保障し、国家に歯止めをかけるのが憲法です。

また、国民の人権を制限することができるとしても、それは他人の人権と衝突するときにやむをえず許されるだけであり、抽象的な「社会公共の利益」を理由に人権を制限することなどはできません。これが「公共の福祉」による人権制限の意味です。

ですが、こうした理屈では説明しづらい場合もあります。明確に他人の人権との衝突とはいえない、他の「憲法上の要請」から人権を制限せざるをえない場合があるのです。

たとえば、裁判官が法廷において、傍聴人に政治的なビラを配るなどの積極的な政治活動をしたらどうでしょうか。

裁判官も国民ですから、「政治活動の自由」という人権が保障されています。これは憲法21条1項の「表現の自由」によって誰もが保障されている人権です。

しかし公務員である裁判官に、この「政治活動の自由」をまったく自由に認めてしまうと不都合が生じます。裁判官が本当に中立的な裁判をしてくれるのか疑問をもつ人もいるでしょう。司法権に対する国民の信頼が害されてしまう危険性があるわけです。よって、こうした積極的な政治活動は許されず、裁判官の人権が制限されることになります。

このとき人権を制限する根拠は、通常の公共の福祉のように、「誰かの具体的な人権と衝突するから」という理由では説明が困難です。むしろ、「裁判の公正さを保つため」といった憲法上の要請から制限を受けるというほうが、説明しやすいと思われます。

憲法は、国民の人権を保障しますが、同時に裁判官のような公務員の制度を設け、それが本来の目的に従って正しく機能するように、一定の公務員の人権が制限されることを予定しているといえるのです。
 
ただし、公務員は憲法を守る側の人間ですが、それと同時に一市民でもあるのですから、自分の人権も保障してもらえる立場にあります。公務員だからといって、けっして人権保障がおよばないわけではありません。

かつて「公務員は全体の奉仕者(憲法15条2項)だから人権が制限されてしまうんだ」という説明がなされたことがありましたが、それは正しくありません。「全体の奉仕者」というのは、あくまでも公務員は全国民のために仕事をするのであって、特定の個人や利益団体のために仕事をするのではないという、あたりまえの心がまえを言っているだけです。

公務員の人権を一般国民よりも制限できるとしたら、その理由は「憲法が公務員の存在を前提につくられていて、憲法自体が公務員に対する特別扱いを許しているからだ」ということになります。そして公務員の人権制限も、「どのような人権がどのような理由で制限されているのか」を個別具体的に考えて、その制限が必要最小限かを判断する必要があります。

先ほどの「裁判の公正」という価値は、憲法31条(法に定められた手続の保障)や第6章の「司法」の章の条文全体が要請している憲法上の価値だといってよいでしょう。ここで大切なことは、「公務員の人権制限が許される根拠となるのは、あくまでも他の憲法上の価値だけだ」ということです。

たとえば、レスキュー隊の人はたとえ多少の危険があるとしても、国民の生命を守るために災害救助活動に邁進します。これは憲法的に考えると、レスキュー隊員の生命という人権が、国民の生命や財産を守るという要請のもとに制限されているともいえます。公務員は国民の人権を守る義務がありますし(99条)、国民を守るための活動は憲法の福祉主義(25条)からみても憲法上の要請だといえるからです。

しかし、こうした憲法上の要請があったとしても、レスキュー隊員に自分の命を投げ出すことまで強制できるものではありません。ましてや、憲法上の要請とはいえないような価値のために、公務員の人権を制限することは許されません。

現在の憲法では、自衛戦争も含めて一切の戦争を放棄していますから、「日本が戦争に勝つため」という理由で、自衛官やレスキュー隊員に危険な仕事を強いることはできません。ですが、仮に憲法が改正されて自衛軍をもつということになると、「自衛のため」という憲法上の要請からさまざまな人権が制限される可能性が出てきます。公務員の人権制限はもちろん、一般国民の人権も「軍のため」という理由で制限が許される可能性が出てきます。

ですから、軍隊を憲法上の制度にするということは、単に軍隊をもつ国になるというだけでなく、私たちの人権を制限する根拠をまた新たにつくり出すことになるのだということを、しっかりと自覚しておかなければなりません。

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