法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です
  憲法9条「理想と現実」  2018年8月27日  
  中川五郎さん(フォーク・シンガー、翻訳家)  
 

 もう13年も前のこと、憲法9条についての歌を作ろうという話があり、ぼくが歌詞を書き、その歌詞に頭脳警察のPANTAさんが曲をつけて生まれたのが「理想と現実」という歌です。
 それまでも憲法9条についての歌が作られたり、憲法9条に曲をつけて歌う試みがいろいろとあったと思いますが、ぼくは日本の憲法の前文や9条で謳われている言葉を取り入れながら、そこに日本の憲法、とりわけ9条に対する自分の思いや考えを重ねて歌詞を作っていきました。そしてできあがったのが、以下のような歌詞です。

理想と現実


理想の前に現実が
どんと大きく立ちはだかる 
戦争放棄と言うけれど 
攻撃されたらどうするのか
誰も国を守らないのか 
誰も銃をとらないのか
世界の危険な現実を前にして 
美しい理想は力なし

現実の前に理想を
強く堅く築きあげる 
人は互いに信じ合い
平和を願い愛するもの
支配したりされること 
地上から永遠になくそうと
つとめているのが世界なら 
力となるのは美しい理想
理想と現実 現実と理想
ふたつはいつか重なり合うのか
現実と理想 理想と現実
ぼくは今も考え続ける

現実に戦争は今もある 
近くで遠くでこの地上で 
自国のことだけにかまけずに 
世界の平和を願うからこそ
若者を赤紙で駆り集め 
若者に銃をとらせるのか
こうして現実が繰り返される 
美しい理想の力を無視して

理想と現実がせめぎあう 
21世紀のこの時代 
銃やミサイルや爆弾で 
人と人とが殺し合う
何千年経っても変わらない 
それが人というものなのか
人の現実に合わせるのでなく 
理想の人間を追い求めたい
理想の実現のために生きること 
それがほんとうの人の現実なのだから
それが理想の現実なのだから
理想と現実 現実と理想
ふたつはいつか重なり合うのか
現実と理想 理想と現実
ぼくは今も考え続ける

 憲法を、とりわけ9条を変えようと主張する人たちの多くは、憲法が現実にそぐわなくなっているから、そして憲法がアメリカに押しつけられたものだからと主張しています。しかしぼくは憲法がもしも現実と乖離しつつあるのだとしたら、憲法を現実に合わせるのではなく、現実を憲法に、憲法の理想に合わせるべきなのではないかと考えています。
 それに今の日本の憲法を作り上げる上でアメリカの力が大きく働いているとしても、それは押しつけなどでは決してなく、人類の理想のため、戦争のない世界のために、国家や民族を超えて共に手をつなぎ前に進もうという強い働きかけ、大きなメッセージだったとぼくは思っています。
 そんな全世界の、人類全体の大切な宝物と言える日本の憲法をぼくらは「守ろう」と叫ぶ以上に、もっともっと逞しく「育て」ていくべきだとぼくは考えています。
 しかも憲法とは権力や為政者が道を踏み外さないようにと、その国の民衆が作り上げているものです。もし憲法を変えなければならない状況になったとしても、その声は民衆の中から上がるべきで、今の日本のように政府や与党、権力を握っている党やそこの党首、その背後にある団体が率先して声を上げているのは、とんでもない本末転倒で、ぼくには滑稽に思えてなりません。

 できあがった「理想と現実」という曲は、PANTAさんとぼく、そして制服向上委員会のメンバーからなるSKiとの特別ユニット、PANTA & 中川五郎 with SKiでレコーディングして、CDシングルとして発売されることになりました。
 その時1曲だけではシングルCDを作れないということで、カップリング曲として急遽生まれたのが「西暦20XX年」という曲です。「理想と現実」をスタジオでレコーディングしている時、ぼくがその場で歌詞を書き、PANTAさんがやはりその場で作曲して誕生した曲です。

西暦20XX年


西暦20XX年 憲法は変えられ 自衛隊は軍隊に
隣の国が攻めてくれば 銃を手に取り戦えるし
遠い異国の戦いにも 戦車で乗り込んで行けるようになった

西暦20XX年 憲法は変えられ 自衛隊は軍隊に
でもひとつ大きな問題が 誰も軍隊に志願しない
そこで政府が考えたこと 徴兵制度復活で若者を集めよう

国のために用意はいいか? 
国のために用意はいいか?
この国のため命を捧げられるか?

西暦20XX年 憲法は変えられ 自衛隊は軍隊に
戦火渦巻く世界の中へ 若者を送り出すのは大人たち
言葉を弄ぶ大人にあおられ 国を信じて若者が死んで行く

国のために用意はいいか? 
国のために用意はいいか?
この国のため命を捧げられるか?
国のために用意はいいか? 
国のために用意はいいか?
こんな国のため命を捨てられるか?

「理想と現実」と「西暦20XX年」の2曲を収めたPANTA & 中川五郎 with SKiのCDシングルは2005年の憲法記念日の直前にアイドル・ジャパン・レコードから発売されました。
 それから13年、この国で現実を理想に近づけようとする動きは遅々として進んでいないどころか、どこまでも理想を現実に引き下げようとする力ばかりが猛威をふるっていますし、いつまでもフィクションの世界であってほしいと強く願って作った「西暦20XX年」が、どんどん現実のものとなってきています。 
 いくら歌ったって理想は実現しないし、現実はますます恐ろしいものになっていくばかり。それでもぼくは「理想と現実」と「西暦20XX年」の2曲はしつこく繰り返し歌い続けて行きます。理想の力を信じながら。

 

中川五郎(なかがわ ごろう)さんのプロフィール

1949年大阪生まれ。68年に「受験生のブルース」や「主婦のブルース」を発表。70年代に入ってからは音楽に関する文章や歌詞の対訳などが活動の中心に。90年代は小説の執筆や翻訳も行っている。1990年代の半ばから、活動の中心を歌うことに戻し日本各地でさかんにライブを行なっている。最新アルバムは、2017年『どうぞ裸になってください』(コスモス・レコード)。同年9月関東大震災の時の自警団による朝鮮人虐殺事件を歌ったCDシングル「トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース」。2005年翻訳『ボブ・ディラン全詩集』ほか著書訳書多数。

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