法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です
  私たちの憲法は、生きる私を守るたいまつのあかり 2018年7月9日  
  堤 江実さん(詩人)  
 
 









「つたえたいことがあります」

あなたに

つたえたいことがあります

あなたの国は
あなたがうまれるずっとまえに
一つの約束をしました

もうけっして戦争はしない
この国の人は だれにも殺させない
ほかの国の人も だれも殺さない

なんてすてきな約束でしょう

生まれたあなたは
その約束にまもられて
平和の中でそだちました

約束をまもりつづけるのは
かんたんなことではありません

それでも
あなたがしあわせだったように
これからうまれてくる子どもたちも
しあわせにそだつように

この約束をまもる
勇気と知恵をもちつづけることが
私たちの責任なのだと

いま
あなたに

ぜひ つたえたいのです

詩集「つたえたいことがあります」(三五館)

 2017年の5月に、富士山の中腹に世界中からたくさんの人が集まって平和を祈る集会が開かれた時のことです。
 一人の青年が、ステージに立ちました。
「日本は70年以上ものあいだ、平和について、世界のお手本でした。
その憧れが、僕を日本文化や日本語にみちびいてくれて、今、僕は日本にいます。どうか、世界にその知恵を教え続けて下さい」
 スペインの青年、ダビド・レアル・ガルシアさんです。
 なんてうれしかったことでしょう。思わず涙がこぼれました。
 平和、人権、民主主義を基本にした、世界中で尊敬されている日本憲法。日本人として、これほど誇らしいことはありません。
 人類は、それぞれの歴史をたどりながら、少しづつでも、理想に向かって歩んでいるはずです。
 フランス革命、アメリカ独立宣言、国連人権宣言、公民権運動、、、。
 理想を掲げるたいまつのあかりは、今も世界を導きます。
 現実がいかに、混乱し、醜く、絶望的に見えても、理想など何の意味がないと思えても、すべての人が平和に、尊厳をもって、幸せに生きるために、理想に向かって、努力を続けることこそが、人に課せられた責任です。
  
 歴史は、行きつ戻りつしながらも、必ず少しづつでも善き方向に向かって今の世界があるのだと、かつて大きな誤りを体験した日本も、きっと善き方向に向かう、それを担保するのが私たちの憲法なのだと信じていました。
 でも、気がつけば、かつて日本を大きく右旋回させた、1930年代の天皇機関説事件のころに、逆戻りしているような最近です。
 治安維持法、国家総動員法などのそっくりさんが、次から次へと立ち現れて、多様な意見を問答無用で数で抑えこみ、邪魔な存在は巧妙に排除し、情報はことごとく隠ぺいし、それを支えるのがメディアという構図です。
 自民党が目指すという新しい憲法案を読むと、ほんとにびっくりします。
 こんなことを、今の時代に考えている人がいるのだと、驚きます。
 かつて、独裁軍事国家に雪崩を打った日本も、こんな風に、じわじわと国のかたちを変えていったのかと、ぞっとします。
 
 戦争は、突然来るものではありません。
 かつて渡邊白泉の句にあったように、「戦争が廊下の隅に立っていた」という日常がいつのまにか、そこに、、、。
 いま、次々に決まっていく法案は、いつのまにかの独裁国家への道へ、気づかぬうちに、、、。そんな恐ろしさを感じます。
 いま、守らなければならないのは、私が私でいることができる自由。当たり前のことが、当たり前に出来る自由です。 
 
 憲法学者の樋口陽一先生は、私たちには、「知る義務」があるとおっしゃっています。
 私たちは、一人の人間として、世界の現在はどうなっているのか、私たちの国で何が起きているのか、激動のスピードには目が回りそうですが、それでもしっかりとその変化を知る義務があります。
 なぜなら、今、生きているということは、未来への責任があるということなのですから。
 時代を作るのは、私たち一人ひとり。
 日本を作るのも、私たち一人ひとり。
 私たちのいのちを守るのも、私たち一人ひとり。
 巧妙ないつのまにかの罠に落ち込まないように、誰かに自分の未来をゆだねてしまわない、「知る義務」をしっかり目指したいと思います。

 私の詩を読んで下さった方が、つないだ手から手に伝わるぬくもりを感じて下さることを祈りながら、、、。

「私には名前があります」

私には名前があります

世界中でたったひとつ
誰のものでもない
私だけのための名前があります

すこやかに
しあわせに

きれいな水をのみ
季節の恵みを食べ
のぼる太陽に感謝して
いっしょうけんめいに生きるようにと
いっぱいの愛をこめて
つけられた名前があります

ひとつの名前に家族があり
ひとつの名前にいのちがあり

かけがえのないたったひとつの名前

世界中のひとりひとりとおなじように
私には名前があります

詩集「つたえたいことがあります」(三五館)

 

堤 江実(つつみ えみ)さんのプロフィール

詩人。
文化放送アナウンサーを経て、詩、翻訳、エッセイ、絵本などの著作、自作の詩の朗読コンサート、日本語についての講演、研修など。詩と絵本の活動に対して、東久邇宮文化褒賞受賞。
「日本語の美しい音の使い方」詩集「世界中の息子たちへ」「つたえたいことがあります」絵本「水のミーシャ」「あ、きこえたよ」「流れ星のリリリ」他著書多数。
ナレーション・村上和雄ドキュメント・「SWITCH」他。
世界一周クルーズ船飛鳥U詩の朗読教室講師。

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